10月某日、某S出版社の、とあるドキュメント賞受賞パーティーに参加。私もかばんもちとしてお供させていただく。会場のあるホテルでは、某出版社の編集者Sさんがロビーまで出迎えに来てくださる。
私にとっては出版社の受賞パーティーなど初体験のこと。受賞の挨拶が既にすんでいたせいか、会場は歓談ムードであった。そんななごやかムードのなか、パーティー初心者の私は、粗相をしないようにできるだけ直立不動の姿勢を保つ。いくら有名な作家先生がいるとはいえ、ボーイが配り歩く酒が気になるとはいえ、キョロキョロしていてはおのぼりさん丸出しである。
ところが、そんな私のわき腹をツンツンつつくお方が。
「おい、櫻井よしこさんがいるぞ。お前、握手してもらえ」
「おっ、藤原(正彦)先生だ! 握手してもらってこいよ」
「あっ、柳美里だ、ほらほら、サインくださいって言ってこい」
押川氏である。
ひええ〜。たしかにテレビや本でしかお見かけしたことのない先生方です。しかしどうみても、「ファンですぅ、握手してください♪」って言えるような雰囲気ではないです。だいたい、オーラがまぶしすぎて近寄れないッス。だが、芸能リポーターか?と思わずツッコミ入れたくなるような押川氏のウキウキした様子に、無謀な任務の遂行も秘書の役目か、と鼻息も荒くなってくる。そこで、横からSさんがやんわりと「サインはまずいよ〜」「握手はまずいよ〜」と忠告してくださる。…助かった。
まだ入社して一年半だが、押川氏と行動をともにしていると、なかなかの確率で芸能人や著名人に遭遇する。特に出張でどこかに出かけた際には、新幹線のなか(中尾彬と錦野旦が並んで座っていた)や食事をとったレストラン(中尾ミエが怖い顔をして頬づえをついていた)など、連続して芸能人を見かけたりもする。そのたびに押川氏は、「サインもらってこいよ」と私のわき腹をツンツンするのである。
はじめはいちいちサインだの握手だの言い出す押川氏のことを、なんてミーハーなおやじなんだ!と思っていたのだが、最近考えを改めている。というのも、先日事務所でテレビを見ていると、米倉涼子のCMを見た押川氏が「これ、川原亜矢子?」と聞いてきたのである。ちがーう!と思わず叫ぶ私。似てもいないし。似ているのは長身なことと長髪くらいか。どうやら若い女優さんなどには全く興味がないらしい。たぶんモー娘。のメンバーはひとりも言えないに違いない。今度聞いてみよう。
というわけで、たんなるミーハーおやじではないことがわかった。サービス精神旺盛な押川氏のことだ。いつも私のわき腹をツンツンしてくれるのは、サインをもらえれば私が喜ぶだろうと思ってのことなのだろう。そうだ、そうに違いない。意外とやさしい押川氏の一面を見た思いである。
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